「体験的・議会改革論」(その2)
都市政治研究所ニュース・レターbQ9(付録)
(2) 政治倫理を確立させる「市民参加」
 政治倫理条例の原案をつくるとき、堺市民たちが工夫したのは「市民参加」。そして、つぎのような内容をもつ条例が成立した。
 @汚職で有罪判決をうけた議員が居座ったときは、市民に対する説明会を開く。また、当該議員の有罪が確定したときは、議会において必要な措置(辞職勧告決議や除名)をとる。
 A市長や議員は、その高潔性をみずから市民に示す。このため、毎年1回、資産や収入状況などを公開する「資産報告書」を提出する。また、その資産報告書を審査するため「倫理調査会」を設置する。
 B前項の倫理調査会の委員の半数以上は市民とする。また、この調査会を市民に公開するほか、資産報告書に疑義をもった市民は調査を請求することができる。
 条例によって実現したことは、説明会への参加、説明会での当該議員や市長への質問、資産報告書の閲覧、疑義についての調査請求、倫理調査会への参加、同調査会の傍聴と、6項目に上る。つまり、市長や議員の政治倫理を維持するシステムが、「市民参加」によって確立した。
 ちなみに、倫理調査会の市民委員は2年に1度公募して抽選で決めるが、2003年度の応募者数は295人。定員6人の49倍だった。条例制定後20年を経ても、依然として市民の関心は高いといえる。


2 「直接請求」は、議会の審議方法を一変させた

(1) 全議員で構成する「特別委員会」と傍聴解禁
 先述のように、市民が制定を求めた「政治倫理条例」の内容は、それまでの日本にはない新しい試みに満ちていた。ところが堺市長は、この条例案を議会に上程する際、「倫理の問題は(中略)法規範とは別の分野の課題」として、「反対」の意見をつけた。
 ほとんどの議員は、この市長意見を基にして「条例を簡単に否決できる」と思ったのであろう。しかし、盛り上がった住民運動がすでに各議員の地盤を揺るがしていて、少なくとも「慎重かつ十分に審議した」という実績を残さなければ、数カ月後に迫った市議選にも大きく響く。それに、この条例案は議員各自の政治倫理を問い、すべての議員に資産公開という新たな義務を課すものである。
 そんな背景から、条例案を審議するために設置する特別委員会を「全議員で構成する」ということがまず決まった。ちなみに、委員長と副委員長は正副議長が務めた。
 また、全議員が座れるような委員会室はないから、特別委員会は本会議場で開くことになった。当時の堺市議会では、「委員会室が狭い」という理由で、委員会の市民傍聴を認めていなかったが、本会議場で開催することになれば、その「理由」は消滅する。倫理条例を審議する特別委員会では、市民傍聴も実現した。

(2) 市民の意見陳述と議員相互の議論
 直接請求に基づく条例の市議会への提案手続きは、地方自治法の規定によって、市長が行う。しかし、市民がつくった条例案の内容や提案理由などについて、市長が市民に代わって答えられるはずがない。そこで、請求代表者を特別委員会に招いて意見を聴き、質疑を行うことになった。また、「賛成者だけでなく、反対意見も聴きたい」という意見があって、活用例の少ない「公聴会」を開催。公募した公述人による意見陳述の機会を設けた。
 そして、このあとは、議員が相互に意見をのべあい、議論を深めることになった。その当時、「議員は互いに質疑しない」という奇妙な「申し合わせ」があったが、これは反古となり、議論にあたっての発言時間の制限も撤廃した。
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