『市政研究』169 お任せ「地方主権」か「参加民主主義」か (その5)

 この日音更町議会は本会議を開会していたが、一般質問の1人目が終わったあと会議を休憩した。そして、傍聴席にいた町民ら23人のうち希望した22人が議員席に招き入れられた。発言者の質問に答えるため、議長・副議長と議会運営委員会・各常任委員会・広報委員会の正副委員長は町長らが座っていた理事者席に着いた。また、その他の議員と理事者らは傍聴席に移った。発言時間は「1人3分程度」とされ、約1時間の間に5人(男性3、女性2)が発言し、議員たちが一所懸命に答えていた。なお、生活保護世帯の数など具体的な質問には町の民生部長が傍聴席から補足答弁をした。
 本会議終了後に懇談した同議会議長の大場博義さんは、「議会改革に必要なことはかたちではなく、実際に議会が住民とどれほど近い距離にあるかではないでしょうか……」と、私に語りかけた。
 地元紙「十勝毎日新聞」によると、北海道では、音更町など十勝管内18町村の議会のすべてが本会議での一問一答式の質疑制度を導入するなどの議会改革を進めている。空知管内の栗山町議会が情報公開と住民との対話を徹底する「議会基本条例」を制定したことも、全国各地の地方議会に先駆けるものであった。
 議会改革の要は、住民から遠い存在になっている議会を変えることである。ところが、議員たちは自分は「選ばれた者」であるという特権意識にひたり、「権威ある議会」への住民参加などまっぴら……とうそぶいてきたのではないか。
 じつは大阪府議会も、政務調査費支出などで府民の非難が高まったことに対応し、2009年3月「議会基本条例」を制定した。その第10条に「議会は、府民の意見を聴く機会を設けるなど、府民が議会の活動に参画する機会の確保を図り、府民の意思を府政に反映することができるよう努めるものとする」との規定もあるが、この条項に基づいて実践された例は聞かない。
 堺市議会でもかつて「議会のあり方に関する調査特別委員会」を設置して改革を試みた。私は、いくつもの課題を提起して委員会での議論に臨んだ。そのひとつは、市民から提出された陳情や請願を議会が審査する際、提出者が議会で発言できる機会を設けてはどうかということだった。これに対して、「平日の昼間に議会へきて意見陳述できるのは、ごくかぎられた市民の方しかいらっしゃらないと思います。したがって、私は陳述自体には反対でございます」などとの発言があって、私の提案は葬られた。発言したのは、2010年4月に結成された議会内会派「大阪維新の会堺市議会議員団」の指導的立場にある議員だが、この議員が休日や夜間に議会を開くことを意図したわけでないことはいうまでもない。

7 あらためて、バークリー市の市民参加

 私がバークリー市で「オープンマイクスピーカー」の話を聞いてきたのは1992年のこと。もう18年にもなる。その後も続いているだろうかと調べていると、「無防備地域宣言をめざす京都市民の会」の代表・石田哲夫さんらが2006年7月に同市を訪れ、実際に会議の様子を見て来たことを知った。
 石田さんの話によると、議場や会議の進行状況は、つぎのような様子だったそうだ。
・議場正面の壁を背にして市長とその左右に8人の議員が並んで座り、向かい合うかたちで傍聴席(123席)が用意されていた。
・開会前、傍聴席はほぼ満席で、議場の外にも市民がたくさん詰めかけ賑やかだった。
・議題に入る前に、小学生数十人が市長や議員の前にたち、一人ずつ夏休みのキャンプなど特別体験プログラムの感想や市への礼をのべた。
・その後、傍聴者から抽選で選ばれた15人の市民が各自2分ずつ発言。内容は、「温水プールの廃止をやめてほしい」「低所得者用の住宅を建設してほしい」などだった。
・当日の傍聴者の多くは発言者が口にした2つの要求をもつ人たちで、要求内容を書いたプラカードも持ち込まれていた。しかし、ヤジなどはいっさいなかった。