「体験的議会改革論」(その7)
都市政治研究所ニュース・レターbQ9(付録)
5 「普通の人」が議員になれる制度を
わがことを棚に上げていうのをお許しいただければ、残念ながら、議員の「資質」がしばしば問題になる。
議長や委員長になっても、事務局が作成する議事の次第書(進行するためのト書き)さえ読めない…なんてことは論外としても、議会の役割や、その基盤をなす「民主主義」などへの理解が皆無に等しい議員がいる。
一般社会ではきっと通用しないと思えるような振る舞いをする人でも、なぜか選挙では当選してくる。「地域の代表」として、とにかく誰かを送りだそうという意識での投票行動をとる住民もまだまだ多いのだろう。それに、候補者がどのような人物であるかに関係なく当選させるような、強い力をもった組織政党だって存在する。
私たちが、最初に市議会をめざしたのは、「ただの市民の政治参加」だった。普通に暮らしている住民の声が届かない議会を変えるためには、その「ただの市民」が議会に議席を得ることが必要だと試みた。そのような試みは、全国各地に広がっていて、徐々に自治体議会も変わりつつある。しかし、このことをさらに進めるには、法律改正などをふくんだ制度改革が必要だ。
龍谷大学法学部の富野暉一郎教授は、「議員個人は“支持者の代表”であり地域住民全体を代表しえない」といい、議会改革の基本的方向は、「決定的に不足している社会的資源を議会に取り入れる制度改革である」と主張される。そして、「女性、給与所得者、官僚の3つの社会的資源を議会に根付かせる改革が今最も緊急に求められている」と提唱された(富野暉一郎「地方議会と住民投票〜分権時代におけるその役割と限界」『地方自治職員研修』2001年7月)。 サラリーマンや公務員が議員になれるような制度改革が必要だという主張は、橋本大二郎・高知県知事が、就任間もない頃に新聞のインタビュー記事で語っておられた記憶もある。かつて逗子市長を務め、議会との厳しい関係を体験した富野教授も、きっと同じ思いを抱かれたのだろう。
私の場合、議員に当選後、勤務先が「公務休職」の制度を認めてくれた。冒頭に記したように、14年間の議員生活の後に復職して、9年間勤務した。再立候補にあたっては「退職」という道を選んだが、さらに4年間の議員任期を終えたときは定年に達していて、復職することができないからだ。
労働基準法第7条に「公民権行使の保障」の規定がある。「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる」
私が「公務休職」の適用を求めたのは、この規定に基づく。しかし、判例によれば、当該公務への就任が長期にわたる場合には解雇事由とし得るとの解釈もある。実際に、14年の公務を経ての私の復職にあたっても、多少の議論があった。それに、私の場合には心配はなかったが、公務休職によって復職後の待遇などに不利をもたらさない保障も必要だろう。労基法のもっと踏み込んだ改正や、その他の法整備が期待される。
ところで、公職選挙法第89条第1項には、「公務員の立侯補制限」が規定されている。「国若しくは地方公共団体の公務員又は特定独立行政法人(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第2項に規定する特定独立行政法人をいう。以下同じ。)若しくは日本郵政公社の役員若しくは職員は、在職中、公職の候補者となることができない」
この法律によって、公務員(郵政公社の職員などをふくむ)は、公職への立候補と同時に身分を失うことになっている。つまり、公務員の場合は、在職のままの立候補さえかなわないのである。民間サラリーマンと同様に、公務休職制度を認める法改正が必要だ。
誤解があってはいけないが、サラリーマンや公務員を引き合いにだしたのは、世の中で普通に通用する能力や資質をもった人が議員になるべきだということである。他の職業においても同様のことだ。